株テーマ:全樹脂電池の関連銘柄

三洋化成工業は慶応大学発のベンチャー「APB」とほぼ全てを樹脂で形成する「全樹脂電池」を開発している。全樹脂電池は、工程が簡素で設備投資額は数十分の1となり、材料コストも半減できる。全樹脂電池は川崎重工が開発する自律型無人潜水機(AUV)の動力源として採用された。リチウムイオン電池の金属電極や電解質を樹脂製とすることで、安全性を高め、エネルギー効率も上がる。

三洋化成が慶応大学発のベンチャー「APB」と共同開発した「全樹脂電池」を、川崎重工の自律型無人潜水機(AUV)の動力源とする実証実験が始まった。全樹脂電池はくぎやドリルで穴を開けても発火しないという安全性が特長で、バイポーラ型電池の一種。エネルギー密度が高く、耐水圧性も確認されているため、深海などの過酷な環境で長時間にわたり水中作業を行うAUVで航続距離などの実証実験を行う。

三洋化成子会社のAPBと、ソフトバンク子会社のHAPSモバイルは、成層圏の通信プラットフォームとなる無人航空機「サングライダー」向けの高エネルギー密度蓄電池の開発で合意した。三洋化成の全樹脂電池は、バイポーラ積層型のリチウムイオン電池で、「サングライダー」は、全長78メートル、10個のプロペラを搭載し時速110キロメートルで高度20キロメートルの成層圏を周回するもので、通信インフラの整っていない地域でも携帯電話網を提供することを目指しており、4度の試験飛行にも成功している。

民間ジェット機の2倍の高度を飛び、カバーエリアが直径200キロと広いため、日本全土なら40機程度でカバーできる。日本上空での商用サービスは、2023年頃を目処としているようだ。


「APB」の堀江社長(慶大教授)は日産自動車でリーフ用のリチウムイオン電池を開発した人物で、三洋化成は2021年稼働を目指して量産工場を建設している。開発当初は10年後に1000億円規模としていた事業規模を5-10年後に数千億円に拡大する目標を掲げている。日産自動車と三洋化成は2020年4月16日に、全樹脂電池の要素技術をAPBにライセンス供与しており、開発製造の障害はなくなっている。

21年春に福井県内で全樹脂電池の新工場を稼働し、10月に製品出荷を開始する。23年には黒字転換、25年にも売上高900億円とする目標を掲げた。2021年5月、全樹脂電池の量産のための第一工場である「APB福井センター武生工場」が開所し、稼働を開始した。10月には本格稼働に移行し、まず川崎重工業の海底ケーブルを検査する自律型無人潜水機向け電池から量産を進める。生産能力は徐々に年200MWhまで引き上げ、定置用蓄電池や各種モビリティ用途、風力発電など再生可能エネルギーの蓄電池にも対応して生産を拡大させる。設備増強などで数年内に3GWhまで生産能力を引き上げ、将来的に生産拠点の世界各地への展開も目指す。新開発の全樹脂電池モジュールは、内部に40枚の電池セルをバイポーラ積層し直列に接続したもので、エネルギー密度が高い。



新東工業は、全樹脂電池のAPBに出資しており、全樹脂電池のゲルポリ塗工ラインの専用設備を共同開発した。塗工後の乾燥工程が不要で、工場面積や使用電力を極限まで抑える。全工程の製造ライン構築を1社で行う画期的なチャレンジで、将来の完全自動化も視野に入れているようだ。

JFEケミカルは負極材料であるハードカーボンを供給、ENEOSも電極材料を供給し、横河電機は製造設備にセンサーを設置し、データを収集する。

三洋化成とAPBは、全樹脂電池の集電体の量産でグンゼと合意した。樹脂集電体は、全樹脂電池の高い異常時信頼性の実現に不可欠な電極の構成部材であり、全樹脂電池の量産化が一歩前進する。

三洋化成工業は、2022年12月に持分法適用関連会社で全樹脂電池を手掛けるAPBの保有株式の一部をトリプルワンに譲渡した。APBの発行済株式の34.2%を譲渡し、議決権所有割合は10%となり、APBは持分法適用関連会社から除外された。三洋化成は日本触媒との経営統合が破談となり、2025年には約1000億円を投じて全樹脂電池の年産能力数十ギガワット時級の次世代工場を計画し、25年には売上高900億円を見込んでいた。30年以降は約1兆円を投資し、マザー工場と同規模の工場を国内外に展開するという並々ならぬ意欲を示していたが、計画は頓挫したようだ。「2024年度営業利益200億円」の中期経営目標を「2025年度営業利益150億円」に引き下げており、全樹脂電池に注力する状況にはなさそうだ。



●APBへの出資企業一覧
5411JFE(JFEケミカル)
5020ENEOS HD(JXTG イノベーション)
1802大林組
3401帝人
6841横河電機
8012長瀬産業
8015豊田通商
6339新東工業

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