注目銘柄

    米国半導体産業再興の二大柱、インテルとTSMCのファウンドリ合弁は実現するか
    ・インテルの多角的な製造拠点拡張戦略

    インテルは2024年3月にCHIPS法に基づく最大85億ドルの補助金供与を受け、アリゾナ州とオハイオ州での最先端ロジック半導体工場建設を加速させた。ニューメキシコ州では先進パッケージング施設の近代化、オレゴン州では高NA EUVリソグラフィ装置を活用した研究開発拠点の拡張が進む。総投資額は5年間で1000億ドル規模に達し、3万人以上の新規雇用を創出する見込みだ。

    2024年11月には国防総省との間で「Secure Enclave」プログラムに基づく30億ドルの契約を締結。これに伴いCHIPS法補助金が当初の85億ドルから78億6500万ドルに減額調整されたが、軍用半導体の国内調達体制強化という国家的要請が優先された格好だ。2030年までに900億ドル規模の投資を実施し、18Aプロセス技術と先進パッケージング技術の組み合わせでAIチップの国内生産基盤を確立する方針を示している。

    TSMCのアリゾナ州メガプロジェクト進展

    TSMCアリゾナは2024年4月、CHIPS法に基づく66億ドルの直接補助金と50億ドルの融資枠を獲得。総投資額を400億ドルから650億ドルに増額し、3つの最先端工場を建設する計画を明らかにした。第1工場では4nmプロセスを2025年前半に、第2工場では3nm/2nmプロセスを2028年に量産開始予定。第3工場では2nm以下のプロセスを用いたAIチップの生産を2030年までに開始する。

    注目すべきは米国主要企業との連携深化だ。NVIDIAやApple、AMDに加え、従来は競合関係にあったインテルへの製造受託まで視野に入れている。アリゾナ工場の完成により、米国企業のアジア依存リスクを軽減すると共に、地政学的な供給網分散に対応する戦略的意義が大きい。労働力育成に向けた5000万ドルの教育プログラムも開始し、現地雇用6,000人と建設関連2万人の雇用創出を見込む。

    ・CHIPS法補助金配分の力学

    商務省が管理する390億ドルの補助金プールでは、インテルとTSMCが最大の受益者となっている。2024年3月時点でインテルが85億ドル、TSMCが66億ドル、サムスン電子が64億ドル、マイクロンが61億4000万ドルを受領。補助金配分の基準では、技術的先進性と雇用創出効果に加え、地政学的リスクの軽減度合いが重要な評価指標となった。

    興味深いのは補助金の使途制約だ。インテルは株式買戻しを5年間凍結、TSMCは技術移転に関する厳格な条件を承諾するなど、政府が企業経営に直接介入する新たな枠組みが形成されている。特にTSMCの事例では、極紫外線(EUV)技術のインテルへの移転が検討されるなど、競合企業間の技術協力を促す政策が特徴的だ。

    ・政権交代の影響と企業対応

    2024年11月の米大統領選でトランプ氏が勝利したことで政策の継続性に懸念が生じている。トランプ陣営は従来、外国企業への補助金支出に批判的だったが、インテルとTSMCの合弁会社設立構想が浮上するなど、現実的な政策転換の兆候も見られる。政権移行を控えた2024年末には、インテルへの補助金確定やTSMCの工場建設加速など、駆け込みの合意が相次いだ。

    企業側も政権の変化を想定したリスク分散を進めている。TSMCはトランプ政権下でも投資計画を維持する方針を表明、インテルはファウンドリー事業の子会社化を通じた外部資金調達を模索するなど、政府支援に依存しない経営基盤の強化に努めている。国防総省との契約拡大や軍用半導体分野への特化など、国家安全保障との連動を深める戦略が目立つ。

    AIチップを巡る製造技術覇権

    両社の投資計画の核心にはAI半導体の製造能力強化がある。TSMCアリゾナ第3工場では2nm以下のプロセスでAI GPUを生産、インテルは18Aプロセス(1.8nm相当)と先進パッケージング技術の組み合わせで次世代AIチップの開発を急ぐ。特にTSMCがインテル工場に技術者を派遣し3nm/2nmプロセスの製造改善を支援する構想は、競合関係を超えた技術協力の可能性を示唆している。

    製造設備の面では、インテルがオレゴン州で高NA EUV装置の導入を進める一方、TSMCはアリゾナ工場で既存のEUV技術を最大限活用する方針。微細化競争に加え、チップレット技術や3D積層技術などパッケージング革新への投資が活発化している。ニューメキシコ州のインテル施設では先進パッケージング技術の開発、TSMCはアリゾナで3nm/2nm対応のパッケージングライン整備を進める。

    ・サプライチェーン再編の波紋

    両社の米国投資は全球的な半導体供給網の再配置を促している。TSMCのアリゾナ工場が完成すれば、AppleのiPhone向けチップの30%以上が米国製造に移行する見込み。インテルはファウンドリー事業の独立を通じ、クアルコムやAMDなど従来のTSMC顧客の獲得を目指す。地政学的緊張が高まる中、主要企業が「China+1」ならぬ「Taiwan+1」の調達戦略を加速させている。

    労働力不足が最大の課題だ。TSMCは現地採用の技術者5000人を育成するため5,000万ドルを投資、インテルはコミュニティカレッジとの連携で技術教育プログラムを拡充。移民政策の影響を受ける外国人技術者依存からの脱却を図りつつ、地元雇用の創出で政治的支持を確保する二重の戦略を展開している。

    ・2025-2030年の市場見通し

    両社の投資計画が完全に実行されれば、2030年までに米国が世界の最先端半導体生産能力の28%を占める見込み。特にAIチップ分野では、TSMCアリゾナ工場がNVIDIA向けGPUの20%超を生産、インテルは自社設計のGaudiチップに加え、AMDやAmazonへのファウンドリー供給を拡大する。地政学リスクの軽減を評価し、クラウド企業が米国製チップのプレミアム支払いを開始する可能性が高い。

    懸念材料はコスト競争力だ。米国製造コストは台湾比で30%以上高く、補助金終了後の採算性が疑問視されている。インテルはファウンドリー事業の独立で外部顧客を開拓、TSMCは政府補助金と顧客企業とのコスト分担で対応する方針だが、長期的な持続可能性には技術革新の加速が不可欠だ。


    インテルの場合、2024年第3四半期に2兆5000億円の赤字を計上するなど経営再建が急務だ。TSMCは米国工場の建設遅延によるキャッシュフローの圧迫が懸念材料。両社とも25%の投資税額控除を最大限活用しつつ、AIチップ需要の拡大を収益改善の起爆剤と位置付けている。

    地政学リスクの指標として、台湾海峡の緊張緩和度合いと米中技術規制の動向が重要だ。TSMCのアリゾナ工場進捗率とインテルのファウンドリー事業顧客獲得数は、米国製造シフトの実効性を測るバロメーターとなる。2025年度以降の補助金追加枠の有無も投資判断に影響を与えるだろう。

株式情報更新 (2月21日)


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