中国半導体産業は新たな変革期を迎えている。米国による先端半導体技術の輸出規制強化という逆風に対し、中国政府はオープンソースの半導体設計アーキテクチャ「RISC-V（リスクファイブ）」を国家戦略として全面的に推進する方針だ。この動きは「中国製造2025」政策で強化された製造基盤をさらに高度化させる重要施策となり、グローバル半導体市場の構図を根本から変える可能性を秘めている。

国家主導のRISC-V推進政策の概要と背景
中国政府は「RISC-V」チップの使用を全国的に奨励する指針を準備しており、早ければ今月中に発表する計画だ。ロイター通信によると、中国工業情報化部、科学技術部、国家インターネット情報弁公室など8つの政府機関が共同で政策草案を作成している。この取り組みは中国で初となるRISC-Vを推進する国家レベルの政策であり、西側技術への依存度低減を目指す明確な意図が読み取れる。

RISC-Vはオープンソースの半導体設計アーキテクチャで、現在のチップIP市場を独占している米インテルや英アームと異なり、ライセンス料が不要で自由に改変できる特徴を持つ。中国がこのオープンな設計を国家戦略として採用することで、西側企業へのライセンス料支払いを回避しつつ、技術制裁の影響を受けない独自の半導体エコシステム構築を加速させる狙いがある。

「中国製造2025」で掲げた製造強国への転換という大きな目標の下、これまで中国は半導体の製造技術に注力してきたが、今回の政策は設計技術の自立という新たな段階に踏み込んだことを示している。特に注目すべきは、ハードウェアだけでなく、AIソフトウェア開発プラットフォームにおいても「ソフトウェア独立」を目指す総合的なアプローチだ。

中国のRISC-V国家戦略は、半導体業界の構造に根本的な変化をもたらす可能性がある。特に注目すべきは、これまでインテルとアームが支配してきたチップIP市場において、無料で開放されたオープンソースのRISC-Vが台頭することによる競争環境の変化だ。

中国が推進するRISC-Vエコシステムは、特にAI分野での応用が加速する可能性がある。中国の新興AI企業ディープシークが開発したAIモデルは、高性能でない半導体でも効率的に動作するため、RISC-V採用を促進する触媒となる可能性が指摘されている。これは、高価なエヌビディアのGPUに依存しないAI処理環境の構築を意味する。